「握手」が紡ぐ、儚くも温かい青春の物語——『描いた未来に君はいない』
青春小説の世界に、静かな波紋を広げている一冊があります。
安部若菜さんの3作目となる小説『描いた未来に君はいない』は、小説野性時代での連載を経て、2026年3月にKADOKAWAより書籍化された作品です。
NMB48のメンバーとして多忙な日々を送りながら、小説家としても着実にキャリアを重ねてきた安部若菜さん。
本作では「握手で心が読める少女」という、一見ファンタジックな設定を軸に、高校生たちの繊細な感情と、限られた命の中で生きることの意味を丁寧に描いています。
「20歳まで生きられない」という言葉を受け止めながらも、彼女の人生を小説に刻もうとする主人公の姿は、多くの読者の心に届く物語といえるでしょう。
恋愛小説でありながら、創作というテーマも深く掘り下げられており、書くことの意味、残すことの意味を問いかけてくる作品でもあります。
淡く切ない読後感が話題になっており、青春小説ファンにとって見逃せない一冊として注目を集めています。
心を読む少女と、小説を書く少年の物語
物語の語り手は、冴えない高校生・鳴海大和。
目立つわけでもなく、特別な才能があるわけでもないと感じている彼のクラスに、ある日、大阪から南奈海が転校してきます。
明るく天真爛漫な南は、クラスにすぐに溶け込んでいく存在。
そして彼女には、「握手をしたら人の心が読める」という不思議な能力があるといいます。
次第に南に惹かれていく鳴海は、自分が密かに小説を書いていることを打ち明けます。
すると南から「私を主人公にした小説を書いてほしい」と頼まれ、二人は創作を軸にした特別な時間を共有するようになります。
輝かしく温かなその時間の一方、クラスの中でどんどん居場所を作っていく南を見て、鳴海は複雑な思いを抱え始めます。
そしてある日、南から「20歳まで生きられない」と打ち明けられ——鳴海は彼女の人生を小説という形で残そうと、静かに決意します。
二人の間に流れる感情の機微、創作を通じて深まる絆、そして限られた時間の中で交わされる言葉の数々。
ネタバレは避けますが、物語の結末に向かうほど、一文一文が胸に迫るような構成になっているといわれています。
著者について——安部若菜さん
安部若菜さんは、NMB48のメンバーとして活躍する傍ら、小説家としても精力的に作品を発表してきた書き手です。
アイドルと作家、という二足のわらじは珍しい存在感を放っており、デビュー以来、その文章力と物語構成への注目が高まってきました。
本作『描いた未来に君はいない』は安部若菜さんの3作目にあたる小説であり、小説野性時代での連載という形で世に送り出された後、KADOKAWAより書籍化されています。
受賞歴や他の代表作の詳細については、書籍やご本人の公式情報にてご確認いただくのがよいでしょう。
アイドルとしてファンと「握手」してきた経験が、作中の不思議な能力の設定に少なからず影響しているのではと推測する声も多く、そういった視点から読み解くのも面白いかもしれません。
等身大の若者の感情を丁寧に言語化する筆致は、本作でもその真骨頂を発揮しているといえます。
読みどころ
「握手で心が読める」という設定の深さ
本作において、南の「握手で心が読める」という能力は、単なるファンタジー的な味付けに留まっていません。
握手という行為は、人と人が直接触れ合う最も身近なコミュニケーションのひとつです。
その瞬間に相手の心が筒抜けになるとしたら——という設定は、人間関係における「見えなくていい本音」と「知りたい本音」の葛藤を鮮やかに映し出しています。
南は相手の心が読めてしまうからこそ、傷ついたり戸惑ったりする場面があるであろうことも想像でき、彼女の天真爛漫さの裏側にある複雑さが浮かびあがる仕掛けといえます。
この設定を通じて、「本当に人の心に触れるとはどういうことか」という問いが、物語全体に静かに響いているのが本作の大きな読みどころのひとつです。
「書く」ことへの真摯なまなざし
鳴海が小説を書いているという設定は、物語において非常に重要な役割を果たしています。
南から「私を主人公にした小説を書いてほしい」と頼まれた瞬間から、創作は二人の関係を深める架け橋になります。
書くことは、誰かの存在を記憶に刻む行為でもあります。
「20歳まで生きられない」という事実を知った鳴海が、小説という形で南の人生を残そうとする決意は、創作の持つ意味を改めて問いかけてくるといえます。
書くことへの迷い、書き続けることの意味、そして「誰かのために書く」ということの重さ——。
創作に携わる人や、書くことに関心を持つ人にとっては、特に刺さる物語かもしれません。
自分の書いた文章が誰かの人生の一部になるかもしれない、という静かな問いが、読後もじわりと残る仕掛けになっています。
揺れ動く感情の解像度の高さ
鳴海の視点から語られるこの物語は、高校生の感情の揺れ動きを丁寧に、そして解像度高く描写していると評価されています。
南がクラスに馴染んでいく姿を見て複雑な思いを抱く鳴海の心理は、嫉妬とも呼べないような、けれど確かに胸の内をざわつかせる感覚として描かれているようです。
恋愛感情が芽生える前後の、あの名前のつけにくい感情——。
自分でも整理できていない気持ちを抱えながら、それでも南のそばにいようとする鳴海の姿は、多くの読者が共感できるリアルな青春像といえます。
感情に対して誠実に向き合う安部若菜さんの筆致は、本作においても存分に発揮されているといわれています。
こんな人におすすめ
切なくも温かい青春小説が好きな人
恋愛と友情、創作と命をテーマに絡め合わせた本作は、読後感に独特の余韻を持つ青春小説です。
「泣ける青春小説を探している」「心に残る恋愛小説が読みたい」という人に、特に響く作品でしょう。
切なさの中にも温かみが宿っている作風は、幅広い年代の読者に評価されています。
「書くこと」に興味がある人
小説を書くことへの葛藤と喜びが、物語の重要な軸として描かれています。
創作活動をしている人や、書くことに興味を持っている人にとって、鳴海の姿は他人事ではないように感じられるかもしれません。
「誰かのために書く」という動機の重さを、主人公と一緒に考えながら読み進めることのできる作品です。
限られた命と向き合うテーマに関心がある人
「20歳まで生きられない」というモチーフは、余命を題材にした作品が好きな読者にも刺さるテーマです。
感傷的になりすぎず、それでいてしっかりと命の重さを描いているといわれており、重たすぎず読み進めやすいバランス感覚が特徴といえます。
生きることの輝きを静かに見つめ直したい人にとって、心に寄り添う一冊でしょう。
安部若菜さんの作品を追っているファン
NMB48のメンバーとして活動しながら小説を書き続ける安部若菜さんの、3作目となる節目の作品です。
これまでの作品を読んできたファンはもちろん、本作をきっかけに安部若菜さんの書き手としての世界に触れる人にも、入り口として丁度よい作品といえるでしょう。
アイドルとしての顔とは異なる、書き手としての安部若菜さんの成長を感じられる一冊かもしれません。
注意点
余命・病気をテーマにした描写が含まれます
本作には「20歳まで生きられない」という、余命・難病に近い設定が含まれています。
このテーマに対して感情的な負担を感じやすい人は、体調や気持ちが整っているタイミングで読み始めるのが良いでしょう。
丁寧な筆致で描かれているとはいえ、読み進めるうちに感情が揺さぶられる場面があることは想像に難くありません。
心の準備をしたうえでページを開くことが、より深く物語に向き合うことにつながるでしょう。
ファンタジー要素は「軽め」の作品です
「握手で心が読める」という設定を持つ南ですが、本作はファンタジー小説や超能力バトルものではありません。
その能力は、物語の道具として機能しているものの、作品の核心はあくまでも人間の感情と関係性にあります。
SF・ファンタジー色の強い作品を期待すると、雰囲気が異なると感じるかもしれません。
あくまでも青春恋愛小説として、リアルな感情描写を楽しむつもりで手に取るのがおすすめです。
おわりに
『描いた未来に君はいない』というタイトルは、読み終えたあとに改めて眺めると、その意味の重さがじわりと染み渡ってくるといわれています。
「描いた未来」とは誰が描いた未来なのか。
「君」とはどこにいるのか——。
タイトルだけで、すでに物語の余韻を孕んでいます。
鳴海が握りしめる「書く」という行為、南が抱える「生きる」という時間、そして二人の間に流れる名前のつけにくい感情。
それらが一本の物語の中で交差していく様子は、青春というものの輝かしさと脆さを同時に照らし出しているといえます。
安部若菜さんが本作を通じて伝えようとしているのは、単純な「悲しい恋愛」ではないはずです。
書くことで誰かの存在を守ろうとする、その切実さと優しさが、物語の根幹にある——そう感じさせる作品です。
NMB48のメンバーとして、毎日多くの人と向き合い、言葉を交わしてきた安部若菜さんだからこそ書ける感情の質感が、本作には詰まっているように思われます。
2026年3月、静かに話題を集めているこの一冊。
読み終えたあと、しばらく余韻の中に浸っていたくなるような、そんな物語です。
ゆっくりと、丁寧に読み進めていただきたい作品といえます。
この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。
おわり
ジャケドロ661
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