整数のふしぎが、対話を通じてやさしくほどける。
数学というと、複雑な計算や難解な公式を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』は、そのイメージをやさしく覆してくれる一冊として話題を集めています。
倍数の見分け方、素数の求め方、数当てクイズのような親しみやすいテーマを入り口にしながら、整数が持つ深くて美しい世界へと読者を誘う構成になっています。
対話形式で進むため、数学が苦手な人でも自然に考えを深めていけるのが特徴といえます。
中学生・高校生から、かつて数学に挫折した大人まで、幅広い読者に支持されているシリーズの第2弾です。
あらすじ
本書は「ぼく」と呼ばれる語り手の男子高校生と、数学が得意な女子高校生たちが登場する対話形式の数学解説書です。
整数をテーマに、倍数の見分け方という身近なところからはじまり、素数の求め方や素数が持つ不思議な性質へと話が展開していきます。
数当てクイズのような遊び心ある題材も取り入れられており、読み進めるうちに「なぜそうなるのか」を自然と考えるよう導かれる構成になっています。
さらに、センター試験にはじめて登場したことで注目された「数学的帰納法」についても、丁寧に解説されています。
各章の末尾にはその章の内容を確認するための問題が設けられており、巻末には発展的な研究問題も収録されています。
ただ読むだけでなく、自分の手で考え・解く体験ができる一冊。
数学を楽しみながら確実に深めていける、そんな設計が随所に感じられる作りになっています。
著者について
結城浩(ゆうき・ひろし)さんは、1963年生まれのプログラマ・技術ライターです。
大学ではコンピュータサイエンス系の学科を専攻されており、数学科の出身ではないというのが、多くの読者にとって驚きのポイントかもしれません。
本を書く生活はおよそ30年にわたり、著書はおよそ60冊に上るという、圧倒的な執筆経験を持つ著者です。
2002年頃から個人サイトで「数学ガール」の執筆を発表され、読者からの熱い支持を受けて書籍化という経緯をたどっています。
2014年3月には、「数学ガール」シリーズで日本数学会出版賞を受賞されています。
代表作には『数学ガール』『プログラマの数学』『暗号技術入門』『数学文章作法』『Java言語で学ぶデザインパターン入門』などがあり、数学・プログラミングの両分野にわたる幅広い著作が知られています。
数学の専門家ではなく、技術者・書き手としての視点から数学の面白さを伝える——そのスタンスが、本シリーズの親しみやすさを生み出している一因といえるでしょう。
読みどころ
対話形式が生み出す「一緒に考える」感覚
本書の最大の特徴は、登場人物たちの会話を通じて数学が展開されていく対話形式にあります。
「ぼく」が疑問を持ち、問いかけ、考え、理解していく過程が丁寧に描かれているため、読者はその思考の流れに自然と乗ることができます。
ひとりで参考書を読んでいると、途中でつまずいてもどこで躓いたかわからなくなることがよくあります。
しかし対話形式では、「どこがわからないのか」を登場人物が代わりに言葉にしてくれるため、読者は置き去りにされる感覚を覚えにくいといえます。
数学の解説書でありながら、物語を読むような感覚で読み進められる——その独自の読み心地が、本シリーズに多くのファンが生まれた理由の一つでしょう。
難しい内容に向き合うときほど、この「一緒に考えている」という感覚が心強く感じられるはずです。
整数の「当たり前」に潜む深さ
本書が扱う整数というテーマは、一見すると非常に身近です。
1、2、3——と数えることは、子どものころからだれもが経験していることですし、倍数や素数という言葉も学校で習った記憶があるでしょう。
しかし本書を読み進めていくと、その「当たり前」の裏に驚くほど深い構造が隠れていることに気づかされます。
なぜ3の倍数は各桁の数字の和で見分けられるのか。
素数はどんな規則で並んでいるのか、あるいは並んでいないのか。
そのような問いに対して、「なんとなくそういうもの」で終わらせるのではなく、「なぜそうなのか」をきちんと言葉と式で説明する——その丁寧さが、本書の核心にある姿勢といえます。
整数論は現代の暗号技術にも深く関わる分野ですが、本書はそのような応用の話には踏み込まず、純粋に「整数の面白さ」を味わうことに集中しています。
それがかえって、本質的な数学的思考を身につけることに繋がっているといえるでしょう。
「数学的帰納法」への丁寧な案内
本書のもう一つの読みどころは、「数学的帰納法」の解説です。
センター試験にはじめて登場したことで話題になったこの手法は、「すべての整数について成り立つ」ということを証明するための強力な道具です。
「1で成り立つ」「nで成り立つならn+1でも成り立つ」——その二段階の論理がなぜ「すべての整数」を証明できるのかという問いは、はじめて学ぶ多くの人が感覚的に飲み込みにくいと感じるところです。
本書では、この「なぜ」に対して丁寧な言葉と具体例を用いて向き合っています。
登場人物たちの対話の中で、数学的帰納法の考え方がほぐれていく過程を追うことができるため、暗記するのではなく「腑に落ちる」形で理解できるよう設計されているといえます。
試験対策としてだけでなく、数学的な証明の作法そのものに興味を持つきっかけとしても、この章は価値ある読みどころになっています。
こんな人におすすめ
数学が苦手で、もう一度基礎からやり直したい人
数学の教科書や参考書を開くと、いつの間にか置き去りにされてしまう——そういった経験を持つ方に、本書は特に合っているといえます。
対話形式で丁寧に展開されるため、「わからなくなった瞬間」に登場人物が同じ疑問を代わりに持ってくれるような構成になっています。
「勉強」という構えを取らずに、物語を読む感覚で整数論の入り口に立てる一冊です。
素数や整数論に漠然とした興味がある人
素数の不思議さや整数が持つ規則性について、なんとなく気になっているという方にも本書は向いているでしょう。
整数論は数学の中でも特に「問いかけが簡単で、答えが深い」という性質を持つ分野として知られています。
本書はその入り口として、専門的な知識を前提にせずに整数の面白さを体感させてくれる構成になっています。
数学的帰納法をきちんと理解したい受験生・学生
「数学的帰納法をなんとなく使っているが、本当に理解できているかわからない」という状態の方にとって、本書の解説は参考になるでしょう。
試験問題に解答するための手順としてではなく、「なぜこの論法が成り立つのか」という根拠から学べる内容になっています。
理解の深さが問われる場面で、本書で得た視点が役立つかもしれません。
子どもに数学の楽しさを伝えたいと考えている大人
本書は中学生・高校生からでも読めるやさしさで書かれており、数学に興味を持ちはじめた子どもへの贈り物としても選ばれています。
親子で同じ本を読んで対話する——そのような楽しみ方も、本書の構成からは自然と生まれてくるでしょう。
数学を「難しいもの・つまらないもの」ではなく「考えるのが楽しいもの」として伝えたいと思っている大人にとって、本書は心強い一冊といえます。
注意点
数学の問題を「解く」練習を主目的にしている人には向かないかもしれません
本書は数学の楽しさや考え方の面白さを伝えることに重点を置いた対話形式の書籍です。
試験に向けた演習量を確保したい、問題をたくさん解きたいという目的には、やや物足りなさを感じる可能性があります。
各章末と巻末に確認問題・研究問題は収録されているものの、問題集や演習書として使用するのには向いていないといえるでしょう。
「まず数学の考え方を楽しみながら理解する」という位置づけで手に取るのがよいと思われます。
整数論の「全体像」を網羅的に学ぶ教科書を求める方にも注意が必要です
本書は整数論の入門的なテーマを丁寧に扱うものであり、整数論を体系的・網羅的に学ぶことを目的とした学術書や専門書ではありません。
本格的な整数論の学習を目指している方にとっては、入り口・動機づけとしての価値は十分にあるものの、それだけで専門知識が身につくわけではないといえます。
本書で整数に対する関心と基礎的な視点を育てたうえで、より専門的な書籍へと進んでいくというステップが、より充実した学びにつながるでしょう。
おわりに
『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』は、数学を「わかること」の喜びから遠ざかってしまった人を、もう一度その入り口へ連れ戻してくれるような一冊です。
整数という、だれもが知っているようで実はよく知らなかった世界。
その世界に、対話という形でゆっくり足を踏み入れていく体験が、本書には詰まっています。
「数学はつまらない」「難しくてわからない」という固定観念は、じつは「考える前につまずいている」ことから来ている場合が少なくありません。
本書の対話形式は、その「考えはじめる前の壁」をやわらかく取り除く役割を果たしているといえます。
数学的帰納法という一見とっつきにくいテーマでさえ、登場人物たちの会話の中で少しずつ輪郭をあらわにしていく——その展開は、読み物としての面白さも十分に備えているといえます。
受験生として、あるいは大人として、数学と向き合い直す機会を探している方にとって、本書は穏やかな出発点になるでしょう。
整数の奥深さに触れながら、数学を楽しむ時間をそっとはじめてみるのがおすすめです。
この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。
おわり
ジャケドロ661
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