
パンと日常と、ほんの少しの謎を楽しむ連作ミステリー
第23回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作『謎の香りはパン屋から』(土屋うさぎ さん著)
パン屋を舞台にした、ほっこり優しい連作短編ミステリーです。
“ミステリー”といっても、血なまぐさい事件ではなく、日常の中にあるささやかな「違和感」にスポットを当てた、優しい物語です。
「日常系ミステリーが好き」
「パンが好き」
「読後感がよくて、温かい気持ちになれる本を探している」
そんな方にぴったりの一冊です!
『謎の香りはパン屋から』とは?作品の魅力を徹底解説
物語の舞台と主人公
物語の舞台は、大阪府豊中市にあるパン屋〈ノスティモ〉(ギリシャ語で「美味しい」という意味)
ここでアルバイトをしている大学一年生・市倉小春(いちくらこはる)が主人公です。
小春は漫画家を目指しながらパン屋で働いており、その鋭い観察眼で日々のささやかな謎を解き明かしていきます。
土屋うさぎさん自身が大学在学中に約3年半働いていた豊中市のベーカリーをモデルにしており、登場人物も実在する人物の雰囲気を参考にして描かれています。
だからこそ、キャラクター描写がリアルで、会話のテンポや空気感が自然なのです。
5つの章で紡がれる、パンと謎の物語
本作は5つの連作短編で構成されています。
それぞれの章にパンが登場し、パンが謎解きのカギとなっていきます。
第一章「焦げたクロワッサン」
親友の由貴子にライブビューイングをドタキャンされた小春。
誘ってきたのは彼女のほうなのに、なぜ?小春が辿り着いた意外な真相とは。
第二章「夢見るフランスパン」
優秀なパティシエの紗都美さんが、フランスパンに切れ込みを入れる作業だけできなくなってしまった理由を、小春が推理します。
第三章「恋するシナモンロール」
ヒョウ柄のおばちゃんと激しいバトルを繰り広げてまでシナモンロールを買った女子高生。
彼女が野球部の男子高生とカフェスペースで談笑する姿に隠された秘密とは?
第四章「さよならチョココロネ」
チョココロネの販売中止が決まった頃、豊中市に突如現れたひったくり犯。
被害者が常連客だったことから、小春は犯人の推理を始めます。
第五章「思い出のカレーパン」
30年前に食べていたという思い出のカレーパンを探している老婦人。
小春と先輩が豊中市中のパン屋を巡り、辿り着く意外な真相。
この章には、実在するベーカリーをモデルにした店舗が登場します。
『謎の香りはパン屋から』の5つの魅力!

1. 主人公・市倉小春の観察眼が光る
漫画家を目指している小春は、人の表情や仕草、言葉の端々に現れる違和感を見逃しません。
過剰なキャラ付けがなく、押しつけがましくなく物事を読み解く姿勢が、読者の共感を呼びます。
謎解きの過程で相手に寄り添い、誰も傷つけない解決へと導くやさしさが魅力です。
2. 魅力的な登場キャラクターたち
パンをこよなく愛し、国内外での受賞経験も持つ堂前店長。
小柄で童顔だが頼りになる姉御肌の社員・福尾さん。
大人しくも有能なパティシエ側のアルバイト・紗都美さん。
赤髪がトレードマークで自他ともに認めるギャルのレナ先輩。
個性豊かな面々が、物語に彩りを添えています。
特に店長のパンへの情熱は時に暑苦しいほど。「パンは生きている」という哲学的な店長像が、物語に深みを与えています。
3. パンの香りが漂ってくるような描写
クロワッサン、フランスパン、シナモンロール、チョココロネ、カレーパン。
どれも美味しそうなパンばかりが登場し、読んでいると本当にパンの香りが漂ってきそう。
パンへの情熱とリスペクト、細やかな描写が、作品全体を包み込んでいます。
選考委員からも「おいしそうなパンの魅力で読ませる」と評価されたこの描写力は、土屋うさぎさんが大学時代に約3年半パン屋でアルバイトをしていた経験が存分に活かされています。
4. 小さな謎と人間ドラマの絶妙なバランス
本作の謎は、殺人事件のような大事件ではありません。
日常の中の「なんで?」と心にひっかかる小さな違和感。
しかし、その背景には人と人とのすれ違い、家族との距離感、過去の後悔など、誰もが共感できる感情が描かれています。
謎解きはあくまで日常の一部。
感情の流れにしっかり寄り添って描かれているからこそ、読み終えた後の満足度が高いのです。
5. 豊中という舞台設定の妙
都会すぎず、田舎すぎない豊中市。
関西らしいあたたかさと、地域の空気感がパン屋という空間によくマッチしています。
土屋うさぎさんは箕面市出身で、大阪大学に在学していた際の経験が色濃く反映されています。
実在の地名が登場することで、リアリティが増し、読者は物語の世界に自然と引き込まれていきます。
こんな人におすすめ!
- 日常系ミステリーが好きな人
血なまぐさい事件ではなく、日常の謎を楽しみたい方にぴったり - パンやカフェの雰囲気が好きな人
読んでいるだけでパンの香りが漂ってきそうな描写に癒されます - 人間関係の機微を描いた作品が好きな人
人と人とのすれ違いや、家族との距離感が丁寧に描かれています - 気軽に読める連作短編集を探している人
各章が独立しているので、隙間時間に少しずつ読むこともできます - 忙しくても良質な読書体験がしたい人
短時間で読めるのに、心に残る読後感が得られます - やさしいストーリーで気持ちをリセットしたい人
誰も不幸にならない、多幸感ある物語です - コージーミステリーが好きな人
温かく、軽やかで、肩が凝らずに楽しめる作品です
あわせて読みたい:『このミス』大賞の名作たち
『このミステリーがすごい!』大賞は、これまで数々の名作を世に送り出してきました。
- 第22回大賞受賞作: 『ファラオの密室』白川尚史さん
- 第21回大賞受賞作: 『名探偵のままでいて』小西マサテルさん
- 第20回大賞受賞作: 『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』南原詠さん
- 第19回大賞受賞作: 『元彼の遺言状』新川帆立さん
『元彼の遺言状』は、ドラマ化されて大ヒットしました。
『謎の香りはパン屋から』も、映像化の可能性が期待される作品です。
おわりに|“謎”と“パン”の香りが紡ぐ、あたたかな読書体験

『謎の香りはパン屋から』は、パンの香ばしさと心温まる謎解きが融合した、やさしい物語です。
知的な刺激と感情のゆらぎが、絶妙なバランスで味わえる良作。
選考委員の一人が「決め手は、この味わいの心地よさだ」と評したように、本作は読む人の心をふっと軽くしてくれます。
日々、仕事や家事に追われているあなたにこそ、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
焼きたてのパンとともに、小春の優しい謎解きに包まれる時間。
きっと、読み終わった後には近所のパン屋さんに足を運び、お気に入りのパンを探したくなるはずです。
土屋うさぎさんは「今後は大学時代のダンスサークルのことなども書いてみたいし、ミステリーに限らず、いろいろなジャンルに挑戦していきたい」と語っています。
漫画家と小説家の二刀流で活躍する土屋うさぎさんの、今後の活躍にも期待が高まります。
心がふっと軽くなる、そんな読書体験が待っています。『このミステリーがすごい!』大賞受賞作の実力を、ぜひご自身で確かめてみてください。
この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。
おわり
ジャケドロ661
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