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小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』をご紹介!

※ 本ページにはプロモーションが含まれます

「認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの?」

小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』は、著者自身を彷彿とさせる「僕」を主人公に据えた連作短篇集です。

青山の占い師、80億円を運用する金融トレーダー、偽のロレックス・デイトナを巻く漫画家。

そんな怪しげな人物たちとの出会いを通して、承認欲求と虚実の境界を描き出します。

君が手にするはずだった黄金について

 

あらすじなど

物語は、大学院生の「僕=小川哲」が就職活動を始めるところから始まります。

出版社を受けようとエントリーシートに向き合う「僕」は、ある質問で手が止まってしまいます。

「あなたの人生を円グラフで表現してください」。

何を書くべきなのか。

そもそも自分はなんのために就職するのか。

恋人の美梨は言います。

「就職活動はフィクション。

真実を書く必要はないわ」。

この「プロローグ」から始まる6篇の短篇は、すべて「小川哲」が主人公。

表題作「君が手にするはずだった黄金について」では、高校の同級生・片桐が登場します。

片桐は負けず嫌いで口だけ達者、東大に行って起業すると豪語していましたが、実際は地方の私大で怪しい情報商材を売りつけていたらしい人物。

それが今や80億円を運用して六本木のタワマンに住む有名投資家になっていました。

インスタグラムには高級な肉寿司、レクサス、有名人とのツーショット。

しかしある日、片桐のブログが炎上し始めます。

有料ブログの内容が他からの無断転載だったという疑惑。

次々と暴かれる嘘。

そんな中で「僕」は片桐から寿司屋に誘われるのです。

「小説家の鏡」では、青山のオーラ占い師との不思議な出会いが描かれます。

「偽物」に登場するのは、漫画家のババリュージ。

初対面では控えめで謙虚な様子でしたが、SNSを見ると「代表作は累計百万部突破」「フォロワー数は十一万人」と、予想以上に有名な人物でした。

しかしババもまた、熱狂的なファンと激しいアンチの両方を抱え、ある「偽物」をめぐって騒動に巻き込まれていきます。

そして「三月十日」では、2011年、東日本大震災が起こる「前日」の記憶を巡る物語が展開されます。

3月11日のことはしっかり覚えているのに、3月10日は思い出せない。

震災という大きな出来事の影に隠れてしまった、ごく普通の「なんでもない一日」への問いかけ。

これらの物語を通して、小川さんは問いかけます。

彼らはどこまで嘘をついているのか。

いや、嘘を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか。

虚と実の境界を描く作品

「小川哲」という主人公の設定

本作の最大の特徴は、著者自身を彷彿とさせる「小川哲」を主人公に据えたことです。

私小説なのか。

フィクションなのか。

その境界が曖昧なまま、物語は進んでいきます。

小川さん自身がインタビューで語っているように、「自分に似たような小説家ではなくて、小川哲を主人公に据えればいい」と考えたそうです。

実際の小川哲さんは、千葉県生まれで東京大学に進学、大学院博士課程まで進んだ経歴の持ち主。

本作の「僕」も同様の設定で、どこまでが真実でどこからが創作なのか、読者は戸惑いながらも引き込まれていきます。

小川さんは「どこまでが本当でどこからが嘘か」を明言しないスタンスを取っています。

この曖昧さこそが、本作のテーマである「虚と実」を体現しているのです。

承認欲求を渇望する人々の物語

本作に登場する人物たちは、皆「承認欲求」という共通点を持っています。

80億円を運用すると豪語する片桐。

オーラが見えると主張する占い師。

偽のロレックスを巻く漫画家ババリュージ。

彼らは皆、何らかの形で自分を大きく見せ、認められようとしています。

しかし小川さんは、彼らを一方的に批判するわけではありません。

むしろ、「認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの?」という問いかけを読者に投げかけます。

小説家である「僕」もまた、承認欲求の塊ではないのか。

自分自身を主人公にして小説を書くことこそが、「承認欲求のなれの果て」ではないのか。

作中で小川さん(「僕」)は、こう語ります。

「小説家として生きるということは、ある種の偽物として生きるということではないか」。

日常で出会うかけがえのない奇跡も、小説という文章にすると「偽物の黄金」に変わってしまう。

この自己言及的な構造が、本作に独特の深みを与えています。

「黄金律」への皮肉な視線

表題作に登場する「黄金律」。

「自分がしてほしいことを他人にしましょう」という原則です。

相手に求められていることをするという意味では、小説家もタレントも、この黄金律に則っている生き物なのかもしれません。

しかしそれは本当に「黄金」なのか。

それとも「偽物の黄金」なのか。

本作は、そんな問いを読者に投げかけ続けます。

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小川哲さんのキャリアについて

華々しいデビューと快進撃

小川哲さんは、1986年千葉県生まれ。

千葉大学教育学部附属小学校、附属中学校を経て、渋谷教育学園幕張高等学校へ進学。

2005年に東京大学理科一類に入学しましたが、文転して教養学部教養学科超域文化科学分科表象文化論コースに進みます。

その後、東京大学大学院総合文化研究科博士課程に進学しましたが、2018年に中退。

小川さんは大学院の博士課程在籍中に小説家を志し、2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞して作家デビューしました。

注目すべきは、デビュー以来刊行したすべての単行本が文学賞を受賞しているという驚異的な実績です。

2017年の『ゲームの王国』は第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞をダブル受賞。

2019年の『嘘と正典』で第162回直木賞候補となり、2023年には『地図と拳』で第168回直木賞を受賞しました。

また、2022年刊行の『君のクイズ』は第76回日本推理作家協会賞を受賞し、2023年本屋大賞にもノミネートされています。

ジャンルを超える作家

小川哲さんの魅力は、ジャンルにとらわれない執筆スタイルにあります。

SF、歴史小説、ミステリ、そして本作のような私小説風の連作短篇集。

どのジャンルにおいても高い評価を得ており、「学者肌的」とも形容されるその緻密な作風は、東大大学院で研究者を志した経歴と無関係ではないでしょう。

直木賞受賞作『地図と拳』は、満州を舞台に1899年から1955年までを描いた600ページ以上の大長編。

参考文献には130冊以上が挙げられており、徹底した取材と調査に基づく執筆姿勢が窺えます。

一方で『君のクイズ』は、生中継のクイズ番組で起こった「ゼロ文字正答」の謎を追う異色の作品。

そして本作『君が手にするはずだった黄金について』では、私小説的な手法を用いながら、虚実の境界を問う実験的な試みに挑戦しています。

小川さん自身は「小説を書くとき、よく百年後のことを考えます」と語っています。

時代を超えて読まれる作品を目指す姿勢が、その多彩な作品群からも伝わってきます。

本屋大賞ノミネートと反響

2年連続のノミネート

本作『君が手にするはずだった黄金について』は、2024年本屋大賞にノミネートされました。

小川哲さんの本屋大賞ノミネートは、前年の『君のクイズ』に続いて2年連続となります。

全国の書店員736名による1次投票を通過し、ノミネート10作品に選出されたことは、書店員が「自分で読んで面白かった」「お客様にも薦めたい」「自分の店で売りたい」と感じた証です。

小川さん自身も、ノミネートについてコメントで「書店員の皆さまの貴重な時間をいただいてしまうという事態になってしまいました。

本当に申し訳ないと思いつつ、『やったぜ』というのが一人の著者としての正直な感想です」と、ユーモアを交えながら喜びを表現しています。

2024年本屋大賞では最終的に第10位となりましたが、直木賞受賞後第一作としての期待と注目は非常に高いものでした。

作品の構成と読みどころ

6篇の連作短篇集

本作は、256ページに6篇の短篇を収録した連作短篇集です。

各篇は独立した物語でありながら、「小川哲」という主人公を通して緩やかにつながっています。

収録作品は以下の通りです。

  • プロローグ:就活と恋模様を描いた導入部
  • 三月十日:東日本大震災の前日の記憶を巡る物語
  • 小説家の鏡:青山のオーラ占い師との出会い
  • 君が手にするはずだった黄金について:高校の同級生・片桐との再会
  • 偽物:漫画家ババリュージと偽ロレックスの騒動
  • エピローグ的な作品

各篇は比較的短く、さらっと読めるのですが、読後には不思議な余韻が残ります。

「これは本当にあった話なのか」「小川さん自身の体験なのか」と考え始めると、虚と実の境界が曖昧になり、読者は作品世界の中に引き込まれていくのです。

テンポの良い文体と会話

小川哲さんの文章は、非常にテンポが良く読みやすいのが特徴です。

特に会話のシーンでは、ユーモアを交えながらも、人間の本質を突くような鋭い言葉が飛び交います。

例えば、恋人の美梨が就活について語る場面。

「就職活動はフィクション」という言葉は、一見軽い冗談のようでいて、本作全体のテーマを象徴する重要な言葉となっています。

また、片桐のような「口だけ達者」なキャラクターの描写は、現代のSNS社会における人間観察の鋭さを感じさせます。

承認欲求に突き動かされ、虚飾を重ねていく人物たちの姿が、決して他人事ではないリアリティをもって描かれています。

思索的な要素と哲学的な問い

本作は軽快に読めるエンターテインメントでありながら、同時に深い思索を促す作品でもあります。

「小説家として生きるということは、ある種の偽物として生きるということではないか」

「日常のかけがえのない奇跡も、小説という文章にすると偽物の黄金に変わってしまう」

こうした言葉は、創作という行為の本質を問いかけています。

また、クリプキの哲学(どれだけ記述を重ねても本人にはならない)への言及など、哲学的な要素も散りばめられており、単なる承認欲求の物語にとどまらない奥行きを持っています。

読み終わった後の問いかけ

虚実の境界について

本作を読み終えた後、多くの読者は「これは本当の話なのか」と考え始めます。

しかし小川さんは、意図的にその答えを明かしません。

なぜなら、「どこまでが本当でどこからが嘘か」を詮索すること自体が、本作のテーマから外れてしまうからです。

重要なのは、書かれたエピソードや人物たちのセリフによって湧いてくる不可思議さや理解できなさ、そして書かれた文章そのものが面白いかどうか。

それこそが小説を読む楽しさなのだと、本作は教えてくれます。

承認欲求と向き合う

SNSが普及した現代において、承認欲求は誰もが持っている感情です。

本作に登場する片桐やババリュージのような極端な例を見て、「自分は違う」と思うかもしれません。

しかし小川さんは問いかけます。

「認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの?」

この言葉は、読者自身の内面を見つめ直すきっかけを与えてくれます。

承認欲求があることは悪いことではない。

しかし、それに囚われすぎると、何が本当で何が嘘なのか、自分でもわからなくなってしまう。

本作は、そんな現代人の姿を、批判ではなく共感をもって描いているのです。

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こんな人に特に読んでほしい

小川哲作品のファン

『地図と拳』や『君のクイズ』を読んで小川哲さんの虜になった方には、本作は必読です。

これまでのSF、歴史小説、ミステリとは異なる、私小説的アプローチを楽しめます。

小川さんの作家としての思考や創作姿勢が垣間見える作品であり、「小川哲という作家をより深く知る」という意味でも貴重な一冊です。

現代社会に生きるすべての人

SNSでの自己表現、就職活動での自己PR、日常の中での承認欲求。

本作に描かれるテーマは、現代を生きる私たち全員に関わるものです。

片桐やババリュージのような「極端な例」に見えるキャラクターたちも、実は自分の中にある要素を映し出しているのかもしれません。

軽快に読めるエンターテインメントでありながら、読後には自分自身を見つめ直すきっかけをくれる作品です。

メタ的な視点を楽しみたい読者

「小説とは何か」「創作とは何か」といった、メタ的な視点に興味がある方にもおすすめです。

著者自身を主人公に据えるという実験的な試みは、「私小説とフィクションの境界」という古くて新しいテーマに、現代的なアプローチで挑んでいます。

小説を読むことの楽しさ、創作することの意味について、新たな視点を得られる作品です。

短篇集が好きな人

6篇の短篇で構成された本作は、短篇集ならではの読みやすさがあります。

一篇一篇は独立しているため、通勤時間や寝る前の少しの時間でも気軽に読み進められます。

しかし各篇がつながって全体としての物語を構成している連作短篇集の妙味も味わえる、贅沢な一冊です。

注意点など

軽いタッチながら深いテーマ

本作は文体が軽快で読みやすいため、さらっと読み流してしまうこともできます。

しかし、その軽いタッチの裏には、承認欲求、虚実の境界、創作の意味といった深いテーマが潜んでいます。

一読しただけでは気づかない要素も多く、読み返すたびに新たな発見がある作品です。

じっくりと味わいながら読むことで、より深い楽しみが得られるでしょう。

好みが分かれる可能性

本作の実験的な構造(著者自身を主人公にする手法)や、虚実の境界を曖昧にする語り口は、読者によって好みが分かれるかもしれません。

「これは本当の話なのか」を明確にしてほしいと思う読者には、やや消化不良に感じられる可能性もあります。

しかし、その曖昧さこそが本作の魅力であり、作者の意図でもあることを理解して読むと、より楽しめるはずです。

他の作品との違い

小川哲さんの代表作『地図と拳』や『君のクイズ』のような、壮大なストーリーや緻密なミステリを期待すると、少し物足りなく感じるかもしれません。

本作はそれらとは異なる、より内省的で実験的な試みです。

「小川哲の新境地」として、先入観なく読むことをおすすめします。

おわりに:虚実の境界に立つすべての人へ

『君が手にするはずだった黄金について』は、直木賞作家・小川哲さんが自身を主人公に据えて描いた、私小説風連作短篇集です。

本作は2023年10月18日に新潮社より刊行され、2024年本屋大賞にノミネートされました。

発売直後から売れ行きは絶好調で、わずか1週間で増刷が決定。

SNSでも「小川さんの小説家としての生きざまが垣間見える」「読むと新しい世界が広がっていく1冊」「あまりの面白さに読むのが止められなくなる」など、多くの反響が寄せられています。

承認欲求を渇望する人々の姿。

虚と実の境界。

そして創作という行為の意味。

これらのテーマが、軽快な文体と魅力的なキャラクターたちによって描かれています。

「認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの?」

この問いかけは、SNS時代を生きる私たち全員に向けられています。

片桐のように承認欲求に突き動かされ、虚飾を重ねる人々を、私たちは一方的に批判できるのか。

小説家である「僕」もまた、自分自身を主人公にして物語を紡ぐという、ある種の承認欲求の表れではないのか。

そして、日常のかけがえのない奇跡を言葉にする時、それは真実なのか、それとも「偽物の黄金」なのか。

小川哲さんは、デビュー以来すべての単行本で文学賞を受賞するという驚異的な実績を持つ作家です。

SF、歴史小説、ミステリと、ジャンルを超えて活躍する小川さんが、本作で挑んだのは「私小説」という形式。

しかしそれは伝統的な私小説ではなく、虚実の境界を曖昧にすることで、「小説とは何か」「創作とは何か」を問いかける実験的な試みとなっています。

読み終わった後、あなたは何を感じるでしょうか。

登場人物たちの姿に自分自身を重ねるかもしれません。

あるいは、小川哲という作家の思考の一端に触れた気がするかもしれません。

本作は、読者それぞれに異なる体験を与えてくれる、不思議な魅力を持った作品です。

軽快に読めるエンターテインメントでありながら、読後には深い余韻が残る。

そんな小説体験を、ぜひ味わってみてください。

君が手にするはずだった黄金について

 

この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。

 

おわり

 

ジャケドロ661

 

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