※本記事には作品のあらすじの紹介と、多少のネタバレを含みます。
道尾秀介さんが描く、異色のサスペンス小説『片目の猿』。
本作は、軽妙なテンポとミステリアスな展開が織りなす“知的エンタメ”ともいえる作品です。
盗聴を生業とする男が、産業スパイの調査をきっかけに事件の深層へと踏み込んでいく物語です。
無駄を削ぎ落としたような緊迫感ある文体と、独特の哀愁が漂うキャラクターたちによって、静かながらも強烈な読後感を残す一冊です。
元々読みやすい道尾秀介さんの作品ですが、
特に一番初めに作品を読むのにオススメしたいのが「片目の猿」です!
片眼の猿―One-eyed monkeys―(新潮文庫) Kindle版
目次
あらすじと見どころ
主人公の三梨(みなし)は、企業間のトラブルや個人間の秘密を“音”によって暴く、盗聴専門の探偵。
老舗楽器メーカーからの依頼で、ライバル会社に潜むスパイの正体を探ることになるが、調査の途中で出会った同業者の女性・冬絵とタッグを組むことで、事態は思わぬ方向へと転がっていきます。
次第に明らかになるのは、ただの産業スパイでは終わらない複雑な人間関係と、過去に縛られた人々の葛藤。
仕事として割り切っていたはずの盗聴が、いつしか彼自身の記憶や感情を呼び覚まし、事件の真相と向き合うことを余儀なくされるのです。
本作は、謎解きの快感というよりも、静かに、しかし確実に胸の奥に突き刺さってくるような“苦味”を含んだミステリー。
キャラクターの背景や心の機微が丁寧に描かれており、ただの探偵劇にとどまらない深みを生んでいます。
『片目の猿』のおすすめポイント
最大の魅力は、主人公のキャラクター性にあります。
誠実さと観察眼を兼ね備えた彼は、読者にとって非常に魅力的な“語り手”です。
彼の視点だからこそ語られる世界には、シニカルさと哀愁が共存し、不思議なリアリティがあります。
また、会話のセンスが抜群に良いのも本作の特徴。
ウィットに富んだやり取りや、皮肉の効いた台詞が読者を飽きさせません。
さらに、物語の節々にちりばめられた伏線が終盤にかけて見事に回収されていく様子は、思わず「やられた!」と唸ってしまうほど。
そして、派手なアクションや過激な演出に頼らず、人間の感情や心の機微を丁寧に描いている点も特筆すべきポイントです。
犯罪や過去の贖罪といった重いテーマがベースにありながらも、読後にはどこか温かいものが残るのが、道尾秀介作品の真骨頂です。
また、現実と虚構の境界をぼやかしながら進行する物語の構造も魅力の一つ。
読者自身の“推理”も試されるような構成は、読み応え抜群でありながらも、どこか親しみやすいという不思議な感覚を味わわせてくれます。
映像化の有無など
『片目の猿』は現在のところ映像化はされていませんが、ドラマや映画としてのポテンシャルは非常に高いといえます。
キャラクターの魅力、ストーリーの起伏、そしてテンポの良い会話劇など、映像向きの要素が満載です。
ただ映像化してしまうと、伏線に関する部分が徐々にわかってしまうので
ちょっと映像化するには難しいなと感じでいます。
この作品を映像化させられる監督さんがいたら
ぜひ視聴して、その手腕を感じてみたいですね。
また、道尾秀介さんは『カラスの親指』などにも代表されるように、過去を背負った人物たちの再生の物語を描くのが得意な作家です。
『片目の猿』もその系譜にある作品であり、もしこの物語に心を動かされたなら、他の道尾作品にも手を伸ばしてみると、より深い世界観を楽しめるでしょう。
こんな人におすすめ
・サスペンスの中に人間ドラマを感じたい人
・皮肉やユーモアの効いた語り口が好きな人
・一人称視点で深く物語に入り込みたい人
・伏線回収やどんでん返しに快感を覚える人
・ハードボイルドすぎないミステリーを求めている人
『片目の猿』は、シンプルなようで複雑。
軽やかなようで重たい。
そんな絶妙なバランスの上に成り立っている作品です。
ページをめくるたびに主人公の過去と向き合い、読んでいる人もまた何かと対峙する気持ちになるかもしれませんよ。
数々の作品を出版している道尾秀介さんの作品の中でも
特に読みやすく、軽快に物語が進み、かつ、伏線回収の中身にあっと驚く仕掛けがあり、道尾秀介さんを知る上で理想的な作品です。
是非一度、読んでみてください!
「あーっ、マジかあ!」って気持ちになれますよ。
片眼の猿―One-eyed monkeys―(新潮文庫) Kindle版
おわり
ジャケドロ661