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西尾潤さんの『マルチの子』をご紹介!あらすじなど

※ 本ページにはプロモーションが含まれます

承認欲求が導く転落の物語を実体験から描いた戦慄のサスペンス

「認めてほしい。ただその一心で始めただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう」

自分自身を認めてもらいたい。

その純粋な欲求が、一人の女性を破滅へと導いていく。

西尾潤さんの『マルチの子』は、著者自身のマルチ商法経験を基に描かれた、現代社会の闇に迫る衝撃作です。

マルチの子 (徳間文庫)

 

あらすじなど

マルチの子 (徳間文庫)

物語の主人公は、鹿水真瑠子という21歳の女性です。

賢くて美しい姉の真莉、可愛らしい妹の真亜紗に挟まれ、強い劣等感を抱えて育った真瑠子。

何をやっても続かず、夢も持てずに毎日をなんとなく過ごしていました。

そんなある日、バイト先の掲示板で一枚の奇妙な貼り紙を目にします。

「磁力と健康セミナー・無料開催」

それは地獄への扉でした。

真瑠子は、健康増進協会お墨付きの高額寝具を主に扱う「HTF」というネットワークビジネス組織に足を踏み入れます。

そこで仲間と出会い、これまで感じたことのない承認と居場所を得た真瑠子は、意外な才能を発揮していきます。

しかし、マルチ商法は所詮マルチ商法。

借金をしてまで売り上げを作り、次々と新しいネットワークビジネスに移り、やがて数百万円の借金を抱え、仮想通貨を使ったビジネスで最終的なカタストロフを迎えることになります。

「認めてほしい」というただ一つの願いが、どこまで人を堕としていくのか。

その乱高下人生をリアルに描くノンストップサスペンスです。

著者自身の壮絶な実体験から生まれた「超リアル」な描写

実体験だからこそのリアリティ

本作最大の特徴は、著者である西尾潤さん自身がマルチ商法にどっぷりとハマった経験を持つという点です。

西尾さんは著者コメントで次のように語っています。

「大人になっても、自分自身が未完成な人ほど、他者に"承認"されることでやっと自分を認めることができます。

情報弱者であり、未熟だった私は、この承認欲求地獄へとはまっていきました。

それはやがて他人を、そして自分自身をも欺すことへと繋がっていきます」

当時の体験と記憶を頼りに描かれた作品だからこそ、マルチ商法の世界の仕組み、勧誘のテクニック、組織内の人間関係、そして何よりハマっていく人々の心理が、驚くほどリアルに描写されています。

傍目には理解できない「渦中の景色」

「なぜマルチなんかに?」と、多くの人が思うでしょう。

しかし、何事も渦中の景色は外野の想像とは大きく異なります。

本作は、その「渦中の景色」を内側から描き出すことに成功しています。

承認欲求に目がくらんだ真瑠子は、借金をしてまで売り上げを作る時点で破綻が見えているにもかかわらず、破滅するまで突っ走ってしまいます。

その姿は読者に強烈な印象を残すとともに、人間の持つ脆弱性を浮き彫りにします。

大藪春彦新人賞受賞作家の第二作として

期待の新鋭作家・西尾潤

西尾潤さんは、大阪府生まれ、大阪市立工芸高等学校卒業。

現在はヘアメイク・スタイリストとしても活動されています。

2018年に第2回大藪春彦新人賞を受賞し、2019年に受賞作を含む『愚か者の身分』でデビュー。

犯罪者を主人公に据えた犯罪小説で、早くも注目を集めました。

そして2021年に発表された『マルチの子』は、西尾さんの第二作目となる長編小説です。

話題を呼んだ受賞歴

本作は発表されるやいなや、各方面から高い評価を受けました。

朝日新聞、日本経済新聞、産経新聞、週刊文春、週刊ポスト、現代ビジネスなど、多数のメディアで紹介され話題沸騰。

2021年には第24回大藪春彦賞の候補作となり、さらに第4回細谷正充賞を受賞しました。

細谷正充賞は、書評家・文芸評論家の細谷正充氏が、前年9月からその年の8月に刊行された本の中から「面白い」と感じた5作品を選ぶ文学賞です。

ジャンルを問わず、純粋に「面白さ」で選ばれる賞であり、その受賞は本作の完成度の高さを証明しています。

各界からの推薦コメント

本作は、専門家からも高い評価を受けています。

今泉将史氏(消費者問題に詳しい弁護士)

「大切な人をマルチ商法から守るために、ぜひ手に取ってほしい一冊」

島田裕巳氏(宗教学者)

「なぜマルチにはまり、堕ちていくのか。

その秘密がわかった」

消費者問題の専門家や宗教学者といった、マルチ商法や集団心理の専門知識を持つ方々からも推薦されている点が、本作のリアリティと社会的意義の高さを物語っています。

作品の構成と読みどころ

成長小説とも読める前半部分

物語の前半は、ともすれば成長小説や青春小説として読めなくもない構成になっています。

劣等感を抱えていた真瑠子が、HTFという組織で仲間と出会い、承認され、意外な才能を発揮していく様は、一種の成長物語として描かれています。

読者は真瑠子の成功に期待し、共感さえ覚えるかもしれません。

避けられない破綻への転落

しかし、マルチ商法という構造的な欠陥を抱えたビジネスモデルである以上、破綻は避けられません。

物語の後半では、真瑠子の転落が加速していきます。

HTFから分裂したSBJFという新たな組織への移動、借金の膨張、そして仮想通貨を使ったネットワークビジネスへの参加。

その過程で、真瑠子の承認欲求がどこまでも彼女を駆り立て、自分自身をも欺くようになっていく姿が、痛々しいほどリアルに描かれます。

衝撃のエピローグ

そして読者を待つのは、衝撃的なエピローグです。

真瑠子に同情していた読者も、最後には複雑な感情を抱くことになるでしょう。

本作は単なる「被害者の物語」ではなく、承認欲求に取り憑かれた人間の業を描いた作品なのです。

現代社会への鋭い問題提起

承認欲求という現代的なテーマ

本作が描くのは、マルチ商法という表面的な問題だけではありません。

その根底にあるのは、現代社会を生きる多くの人が抱える「承認欲求」という普遍的なテーマです。

自分を認めてもらいたい。

価値ある存在だと思われたい。

そんな誰もが持つ欲求が、どのように歪められ、悪用されていくのか。

本作はその構造を鋭く描き出しています。

情報弱者が陥る罠

また、情報格差の問題も浮き彫りになります。

正しい情報を持たず、判断力が十分でない状態の人々が、いかに巧妙な勧誘の手口に取り込まれていくのか。

その過程が詳細に描かれることで、読者は「自分には関係ない」とは言い切れない恐怖を感じるでしょう。

物語の持つ力とその危険性

本作には、集団心理を操作する「物語」の力についての考察も含まれています。

マルチ商法では、「成功物語」「夢の実現」といった魅力的な物語が語られ、人々を引き込んでいきます。

物語は人を動かす強力な力を持つ一方で、その力は人を操るためにも使われうる。

そんな二面性が、作品全体を通して描かれています。

こんな人に特に読んでほしい

現代社会の問題に関心がある人

マルチ商法、ネットワークビジネス、承認欲求、SNS社会など、現代的な問題に関心がある人には強く響く内容です。

フィクションを通して、これらの問題の本質に迫ることができます。

マルチ商法に関わる可能性のある人

実際にマルチ商法の勧誘を受けた経験がある人、家族や友人が関わっている人、あるいはこれから出会う可能性のある若い世代にとって、本作は重要な警告となるでしょう。

心理学や社会学に興味がある人

集団心理、ファン心理、承認欲求、依存の構造など、心理学的・社会学的な興味からも読み応えのある作品です。

西尾潤作品のファン

デビュー作『愚か者の身分』を読んで西尾潤さんの作風に惹かれた方には、さらに深化した作家性を堪能できる作品となっています。

注意点など

心理的に重い内容

マルチ商法の世界を内側から描いた作品であるため、読んでいて心理的に重く感じる場面があります。

特に、マルチ商法に実際に関わった経験のある方、家族や友人が被害に遭った経験のある方は、辛い記憶が蘇る可能性もあります。

マルチ商法に対する複雑な視線

本作は、マルチ商法を単純に批判するだけでなく、そこにハマっていく人々の心理を丁寧に描いています。

そのため、読者によっては複雑な感情を抱く可能性があります。

ページ数のボリューム

単行本で432ページ、文庫版で544ページという相応のボリュームがあります。

じっくりと読み込む時間を確保して臨むことをおすすめします。

関西弁での描写

作品は関西を舞台にしており、関西弁での会話が多く含まれています。

関西弁に馴染みのない読者にとっては、最初は読みにくく感じる可能性もありますが、物語が進むにつれて自然に馴染んでくるでしょう。

おわりに:実体験が生んだ問題作

西尾潤さんの『マルチの子』は、著者自身の壮絶な実体験を基に描かれた、現代社会の承認欲求の闇に迫る衝撃作です。

第2回大藪春彦新人賞受賞という実力派の新鋭作家が、自らの過去と真正面から向き合い、それを小説として昇華させた勇気ある作品でもあります。

主人公・鹿水真瑠子の転落の物語は、単なる一個人の悲劇ではなく、現代を生きる私たち全員に関わる問題を提示しています。

「認めてほしい」という純粋な願いが、どこまで人を堕としていくのか。

承認欲求に取り憑かれた人間の業とは何か。

そして、私たちは同じ罠に堕ちないために何ができるのか。

本作は、そうした重要な問いを読者に投げかける、価値ある一冊です。

朝日新聞、日本経済新聞、週刊文春など多数のメディアで紹介され、第4回細谷正充賞を受賞した話題作は、2023年9月に待望の文庫化もされました。

マルチ商法という社会問題を、エンターテインメントとしても楽しめる小説として描いた本作。

マルチの子 (徳間文庫)

 

読み終わった後、あなたは何を考えるでしょうか。

 

この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。

 

おわり

 

ジャケドロ661

 

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