歌舞伎界を舞台にした壮大な人間ドラマ『国宝』(吉田修一 著)は、美と芸に生きた一人の男の人生を、静かに、しかし濃密に描ききった長編小説です。
芸術と孤独、成功と代償、そして愛と喪失。
二部構成で描かれるこの作品は、第69回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞し、多くの人に高く評価された作品です。
この記事では、『国宝』のあらすじや見どころをご紹介。
吉田修一さんの作家生活20周年の節目を飾る作品について触れてみます。
あらすじ:歌舞伎の世界に生きた男たちの激動の人生
1964年元旦、長崎の老舗料亭「花丸」で、侠客たちが交錯する混乱のなかに産声をあげた一人の男、立花喜久雄。
任侠の一門に生まれながら、そのこの世ならざる美貌は、やがて人々を惹きつけ、彼自身の運命を想像を超える舞台へと導いていきます。
父を抗争で亡くした喜久雄は、上方歌舞伎の名門・花井家に引き取られ、歌舞伎の世界へ。
そこで、花井家の御曹司・俊介と出会い、実の兄弟のように育ちながらも、血と才能という埋まらない溝に悩み、互いを高め合い、ときに激しくぶつかっていく。
舞台は長崎から大阪、東京へ――戦後から高度経済成長期、芸能界の転換期を背景に、歌舞伎、映画、テレビの舞台を駆け抜けるふたりの青年。
血縁、芸、愛、そして裏切りが交錯する濃密な物語が、華やかな世界の裏側で静かに、そして激しく紡がれていきます。
芸の世界に生きることの意味、犠牲、矛盾、情熱。
すべてが重厚に描かれた、現代小説の傑作です。
読みどころと魅力
✔ 芸と人生が交錯するドラマ
歌舞伎役者という特殊な世界で生き抜く喜久雄の姿には、芸術にすべてを捧げる覚悟と、ただひとつの道を極める人間の気迫が感じられます。
物語は華やかな舞台の裏にある血のにじむような努力と、社会との葛藤を丁寧に描き出しています。
芸に魅入られた人間の人生は美しく、そして残酷。
そのギリギリの感情に、読む者の心は大きく揺さぶられます。
✔ 二人の男の対照的な人生
喜久雄と俊介、二人の男の人生が交差しながら描かれる構成は、本作の大きな魅力のひとつです。
芸に生きる者と、血筋に囚われる者。
正反対のようでいて、どこか似ている二人の運命が織りなす人間模様に、深い余韻が残ります。
まるで鏡合わせのような構図が、物語の重厚さをさらに際立たせています。
✔ 美しい日本語と圧倒的な文体
吉田修一さんならではの簡潔で美しい文体が、本作の世界観をより深く味わわせてくれます。
抑制された表現の中に込められた熱量と、どこか冷めた視点が絶妙なバランスで描かれており、読者に強い印象を与えます。
物語全体がまるで舞台を観ているような錯覚を覚えるほど、構成・リズム・描写すべてが計算され尽くした完成度の高さも見逃せません。
映画化情報:2025年実写映画化|主演・吉沢亮が新たな『国宝』を描き出す
2025年6月6日より公開の実写映画版『国宝』は、主演に俳優・吉沢亮さんを迎えた話題作です。原作の前編にあたる“第一部”をベースに、喜久雄の若き日の姿や内面に焦点を当てて再構築された本作は、現代の感性で描かれる新しい『国宝』として注目を集めています。
監督は『フラガール』『悪人』『怒り』などの名作を手がけた李相日氏。
原作『国宝』執筆時から6年越しに構想された作品であり、主演・吉沢亮さんの妖艶で存在感ある演技に期待が集まっています。
脚本は奥寺佐渡子氏、撮影はソフィアン・エル・ファニ氏、美術監督は種田陽平氏と、豪華な制作陣が名を連ねています。
映画独自の魅力
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吉沢亮さんが演じる喜久雄の繊細さと情熱が映像で際立つ
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歌舞伎の世界観を、映像・音楽・衣装・美術で鮮やかに表現
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李相日監督が三度目の吉田作品に挑むことで深まる世界観の再現性
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喜久雄と俊介の絆を映像ならではの心理描写で丁寧に描出
こんな人におすすめ
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芸術や舞台芸能の世界に興味がある人
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重厚で文学性の高い物語を読みたい人
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歴史ある日本文化を背景にした小説に惹かれる人
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人間の成功と孤独を描いた作品が好きな人
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吉田修一作品のファン
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感情に深く訴えかける物語を求めている人
おわりに
『国宝』は、芸という宿命を背負った男の人生を、静かに、しかし壮絶に描いた傑作長編です。
華やかな歌舞伎の舞台とは裏腹に、その裏側には積み重ねられた努力や孤独、揺れ動く感情があります。
本作を読むことで、芸の世界の奥深さだけでなく、人が何かを極めようとすることの尊さが心に響くでしょう。
映画を観て興味を持った方は、ぜひ原作小説にも触れてみてください。
そして『悪人』『横道世之介』といった、吉田修一さんの他の代表作にも、きっと心惹かれるはずです。
芸術と人生が交錯する深淵な世界に、ぜひ一歩踏み込んでみてください。
そして、吉田修一さんの作品に改めて触れてみてください!
良い作品ばかりですよ。
ワタシのおすすめは「パークライフ」です!
おわり
ジャケドロ661