
「騙しと理詰めが勝利を導く」究極の頭脳戦小説
射守矢真兎という名の勝負師が、次々と強者を打ち破っていく。
ミステリーか、ゲーム小説か、青春小説か。
「平成のエラリー・クイーン」と呼ばれる青崎有吾さんが、ロジカルな推理を極限まで研ぎ澄ました、新境地の一作です。
青崎有吾さんの『地雷グリコ』は、2024年に4大ミステリランキング全てで1位に輝き、本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞の三冠を達成した話題作です。
誰もが知るグリコ、神経衰弱、ジャンケン、だるまさんがころんだ、ポーカー。
これらの遊びに特殊ルールを加えた勝負で、読者も一緒に考え込む頭脳バトルが展開されます。
あらすじなど
物語の主人公は、西東京の頬白高校に通う射守矢真兎(いもりや・まと)。
亜麻色のロングヘアにぶかぶかのカーディガンを着た、一見ちゃらんぽらん系に見える女子高生ですが、勝負事にやたらと強いという特技を持っています。
本作は、そんな真兎が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々を描いた全5編の連作短編集です。
文化祭の場所取りをめぐって生徒会と対決する「地雷グリコ」。
百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑む「坊主衰弱」。
自由なタイミングで出せるジャンケンで勝負する「自由律ジャンケン」。
そして最終話「フォールーム・ポーカー」まで、次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは。
平穏を望む彼女が、なぜゲームに巻き込まれ続けるのか。
ゲームの勝敗だけでなく、真兎という人物の内面や、彼女を取り巻く人間関係の変化も丁寧に描かれています。
タイトルにある「地雷グリコ」とは、階段を使った遊び「グリコ」に、相手が地雷を仕込んだ段で止まるとペナルティとして十段下がるという独自ルールを加えたもの。
どこに地雷を仕掛けるか、相手はどこに地雷を仕掛けると予測するか。
読み合いの心理戦が、エラリー・クイーンの本格ミステリの技巧と重なり合います。
ミステリ界の若き旗手による新境地
青崎有吾という作家
青崎有吾さんは、1991年神奈川県生まれ。
明治大学在学中の2012年、『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞してデビューしました。 同賞史上初の平成生まれの受賞者となり、「平成のエラリー・クイーン」という異名を得ました。
授賞式では選考委員から「真正面から本格ミステリに取り組み、エラリー・クイーンばりのロジカルな推理に堂々と挑戦している」と評されています。
デビュー作から一貫して、緻密なロジックと明快な推理を武器に、本格ミステリの王道を歩んできた作家です。
『体育館の殺人』に始まる裏染天馬シリーズ、『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズ、『ノッキンオン・ロックドア』シリーズなど、多彩な作品で読者を魅了してきました。
『地雷グリコ』が切り開いた新たな地平
本作『地雷グリコ』は、2023年11月に刊行されました。
青崎さん自身が「ミステリーを読んでいて一番面白く思う部分はロジックで、『地雷グリコ』はずっとそれをやっている話」と語るように、ロジックの魅力が凝縮された作品です。
しかし、従来の本格ミステリとは異なり、殺人事件は起きません。 舞台は学園、題材はゲーム。
それでいて、手がかりの埋め込み方、論理展開の明快さ、読者を騙す技巧は、まさに本格ミステリそのもの。
ミステリの技法を使いながら、ミステリファン以外にも届く作品を目指した結果、2024年には4大ミステリランキング(「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!」)の全てで1位を獲得する快挙を成し遂げました。
たった1週間で3つの文学賞を受賞
2024年5月10日から16日にかけて、本作は立て続けに3つの文学賞を受賞しました。
第24回本格ミステリ大賞(小説部門)、第77回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、第37回山本周五郎賞。
ミステリの枠を超えて、時代小説の名手・山本周五郎の名を冠した賞まで受賞したことは、本作が単なるジャンル小説ではなく、文学作品としての普遍性を持つことを証明しています。
さらに第171回直木賞の候補にもなり、ミステリ界だけでなく文学界全体から注目を集めました。
作品の構成と読みどころ
5つのゲーム、5つの物語
本作は5編の短編で構成されており、それぞれが独立した読み応えのある物語となっています。
第1話「地雷グリコ」では、文化祭の場所取りをめぐって、真兎が生徒会の切れ者・椚迅人と対決します。
階段を使ったグリコに地雷というルールを加えた頭脳戦は、まさに本作の象徴的な一編です。
第2話「坊主衰弱」では、百人一首の絵札を用いた特殊な神経衰弱に挑みます。
第3話「自由律ジャンケン」、第4話「だるまさんがかぞえた」、そして最終話「フォールーム・ポーカー」へと続きます。
それぞれのゲームは、誰もが知っているシンプルな遊びをベースにしながらも、独自のルールが加わることで、高度な戦略と心理戦が要求されるものへと変貌します。
各編で好きなゲームが違うという読者の声も多く、どの話も読み応えがあります。
エラリー・クイーンの技巧を受け継ぐ構造
本作の最大の魅力は、エラリー・クイーンの本格ミステリの技巧を、ゲームという題材で再構築している点です。
犯人と探偵が相手の繰り出す手を読み合う心理戦。
探偵が犯人の嵌め手を見事に読み取る構造。
これらは古典探偵小説の書き手が追求してきた技巧そのものです。
『地雷グリコ』では、この技巧がゲームの勝負という形で展開されます。
手がかりの埋め込み方、理解しやすい形で論理を噛み砕いて説明するやり方など、ミステリに詳しければ詳しいほど脱帽する技巧が詰まっています。
人物描写と情感の豊かさ
本作はゲーム小説であり、頭脳バトル小説ですが、同時に登場人物たちの心情を丁寧に描いた青春小説でもあります。
真兎という主人公の魅力はもちろん、彼女を取り巻く友人や対戦相手たちも、それぞれに個性的で魅力的です。
ゲームが終わった後のことまで読者が想像したくなる。
この登場人物たちはこれからどういう風に生きていくのだろうと知りたくなる。
小説としての完成度の高さが、ミステリファンだけでなく一般読者にも広く受け入れられた理由です。
編集者の和田典子さんによると、装丁を担当した川名さんから最終話を読んだ後「青崎さんの頭のなかはどうなっているんですか」と電話があったというエピソードも残されています。
『嘘喰い』からの影響
青崎さんは、迫稔雄さんの漫画『嘘喰い』から大きな影響を受けたと公言しています。
ギャンブル&バトルアクション系の漫画として極めて緻密に組まれた『嘘喰い』の、バディシステムやゲームの構造は、本作にも色濃く反映されています。
作中には、『嘘喰い』を読んでいる人にだけ分かるポイントが自覚的に散りばめられているとのこと。
生徒会の椚迅人のピアスの形や口調なども、『嘘喰い』のあるキャラクターをイメージしたものだそうです。
読み終わった後の余韻
ゲームの面白さを再発見する
本作を読むと、子供の頃に遊んだグリコやジャンケンといった遊びが、実は奥深い戦略性を秘めていることに気づかされます。
ルールを少し変えるだけで、こんなにも複雑で面白いゲームになるのか。
読者自身も「もし自分がこのゲームに参加したら」と考えながら読み進めることができる楽しさがあります。
特に「地雷グリコ」や「自由律ジャンケン」は、読了後に友人と実際に試してみたくなる魅力があります。
ロジックの快感を堪能する
本作の核心は、やはりロジックです。
真兎がどのようにして相手の戦略を読み、どのように勝利を手にするのか。
その過程が明快に説明され、読者も納得できる形で描かれています。
一見不利に見える状況から、論理的思考だけで逆転していく爽快感。
これこそが本格ミステリの醍醐味であり、『地雷グリコ』が多くの読者を魅了した理由です。
青春の瑞々しさに触れる
ゲームと論理だけでなく、高校生たちの人間関係や成長も描かれています。
真兎と友人の鉱田の関係。
対戦相手たちとの奇妙な友情。
最終話で明かされる真兎の過去と、彼女が勝負に挑む理由。
これらの要素が、物語に深みと温かさを与えています。
ゲームが終わった後も、登場人物たちの未来を想像したくなる。
そんな余韻が、読後も長く心に残ります。
こんな人に特に読んでほしい

本格ミステリが好きな人
エラリー・クイーンや本格ミステリのロジックが好きな方には、絶対に読んでほしい作品です。
青崎さんが積み上げてきた本格ミステリの技巧が、すべて注ぎ込まれています。
ゲームや戦略的思考が好きな人
ボードゲーム好きや、ゲームデザイナーの方にも楽しめる内容になっています。
各ゲームの戦略性は非常に高く、実際に遊んでみたくなる工夫が凝らされています。
青春小説が好きな人
学園を舞台に、高校生たちが真剣に勝負に挑む姿は、まさに青春そのもの。
爽やかで瑞々しい青春小説としても楽しめます。
青崎有吾作品のファン
『体育館の殺人』などの裏染天馬シリーズ、『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズを読んできた方には、作家としての深化と新境地を感じられる作品です。
『11文字の檻 青崎有吾短編集成』の次に出る、青崎さんの新たな代表作といえるでしょう。
ライトなミステリを求めている人
本作は、帯に「ミステリ」と書かないことを著者と編集者で決めたそうです。
殺人事件が起きない、ゲームを題材にした物語なので、重厚なミステリが苦手な方でも気軽に手に取れます。
注意点など
ゲームの盤面を把握する必要がある
特にポーカー戦では、毎ターン変化する盤面を理解する必要があります。
オーディブル版では、音声と付属資料だけでは難しいという声もあり、紙やメモを取りながら読むとより理解が深まります。
登場人物の名前が独特
射守矢真兎(いもりや・まと)、椚迅人(くぬぎ・はやと)など、聞き馴染みのない名前が多く登場します。
最初は混乱するかもしれませんが、読み進めるうちに愛着が湧いてきます。
続編を期待してしまう
本作は全5編で完結していますが、青崎さん自身が「続きを書きたい気持ちはある」と語っています。
真兎が大人になって、もう少し大きなものを賭ける話になるかもしれないとのこと。
読後、続編を強く期待してしまうのが、ある意味で注意点かもしれません。
おわりに:ロジックを愛するすべての人へ
『地雷グリコ』は、デビュー以来、本格ミステリの王道を歩んできた青崎有吾さんが、ロジックの魅力を極限まで研ぎ澄ました作品です。
本作は、2023年11月に刊行され、2024年には4大ミステリランキング全てで1位を獲得し、本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞の三冠を達成しました。
たった1週間で3つの文学賞を受賞するという快挙は、本作がミステリの枠を超えた普遍的な魅力を持つことを証明しています。
エラリー・クイーンの技巧を受け継ぐ緻密な構成、誰もが知るゲームを題材にした親しみやすさ、そして登場人物たちの瑞々しい青春。
これらが見事に融合した本作は、ミステリファンはもちろん、ゲーム好きや青春小説好きにも広く楽しめる一冊となっています。
「令和一おもしろい」の称号にふさわしい、ミステリーとしても小説としても完璧な作品。
ロジックを愛するすべての人に、ぜひ読んでいただきたい傑作です。
なお、本作は2025年2月28日から漫画版(漫画:暁月あきら)の連載もスタートしており、ビジュアルでもその面白さを楽しむことができます。
この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。
おわり
ジャケドロ661
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