
「医療では、人は救えないんだよ」医師が問いかける、命と幸福の物語
命の重さと、人生の終わりに何を選ぶのか。
医師として、人として、何が正解なのか。
『神様のカルテ』シリーズで知られる夏川草介さんが、生と死、そして真の幸福を見つめた感動作。
夏川草介さんの『エピクロスの処方箋』は、2024年本屋大賞第4位&京都本大賞を受賞し、映画化も決定した『スピノザの診察室』の待望の続編です。
京都の町中にある地域病院を舞台に、医師・雄町哲郎と患者たちが織りなす、深く心に残る医療小説です。
- あらすじなど
- 地域医療の現実と向き合う作品
- 『スピノザの診察室』から続く雄町哲郎シリーズ
- 作品の構成と読みどころ
- 読み終わった後の問いかけ
- こんな人に特に読んでほしい
- 注意点など
- おわりに:命と向き合うすべての人へ
あらすじなど
物語の主人公は、京都の町中にある地域病院で働く内科医・雄町哲郎(おまち・てつろう)。
かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師でしたが、最愛の妹を亡くし、一人残された甥の龍之介と暮らすために、今の職を選びました。
本作では、そんな雄町医師が日々の診療の中で出会う、さまざまな患者とその家族の物語が描かれます。
延命治療を続けるのか、穏やかな最期を迎えるのか。
患者本人の意思と、家族の想い。
医学的な正しさと、人としての幸福。
エピクロスという古代ギリシャの哲学者は、快楽主義の祖とされながらも、実は質素で精神的な幸福を重視した思想家でした。
「エピクロスが主張している快楽の本質は、何よりも『精神の安定』のことなんだ」という作中の言葉が示すように、本作では心の平静こそが真の幸福であるという思想が丁寧に描かれています。
タイトルにある「処方箋」という言葉が示すように、医師が患者に薬を処方するのではなく、人生の終わりに何が本当に必要なのか、その答えを探す物語となっています。
地域医療の現実と向き合う作品
現場の誠実な描写
現代の医療現場では、終末期医療のあり方や、限られた医療資源の中でどう患者に向き合うかが大きな課題となっています。
本作では、大学病院の最先端医療とは異なる、地域病院での日常が描かれています。
患者本人の意思確認が難しい場合、家族との意見の相違、医療スタッフ間での価値観のぶつかり合い。
答えのない問いに向き合う医療者たちの姿は、読者に深い共感と考えさせられる時間を与えてくれます。
「幸福」への哲学的なアプローチ
エピクロスの思想を軸に、「幸福とは何か」という普遍的なテーマが丁寧に紡がれています。
長く生きることが幸せなのか。
痛みから解放されることが幸せなのか。
家族と過ごす時間こそが幸せなのか。
そして、作者・夏川草介さんが「孤独ではないこと」を付け加えているように、人と人とのつながりの大切さが描かれています。
医療小説でありながら、人生哲学を深く考えさせる作品となっています。
『スピノザの診察室』から続く雄町哲郎シリーズ
待望の続編として
『エピクロスの処方箋』は、2023年10月に刊行され、2024年本屋大賞第4位&第12回京都本大賞を受賞し、10万部を突破したベストセラー『スピノザの診察室』の続編です。
前作では、雄町哲郎という一人の医師の生き方と、彼のもとを訪れる患者たちの物語が描かれ、大きな反響を呼びました。
本作は続編ではありますが、この一冊だけでも十分に楽しめるよう配慮されています。前作を読んでいない方でも安心して手に取ることができます。
夏川草介さんのキャリアの中で
夏川草介さんは、1978年大阪府生まれ。
2009年に『神様のカルテ』で作家デビューし、同書は2010年本屋大賞第2位となり、映画化もされました。
『神様のカルテ』シリーズでは、地域医療に奮闘する若き医師の成長と葛藤が描かれ、医療の現場の厳しさと温かさが伝わる作品として高い評価を得ました。
本作『エピクロスの処方箋』は、現役医師として20年以上の経験を積んだ著者が、命と幸福について到達した境地を描いた作品と言えるでしょう。
作品の構成と読みどころ

複数の患者と家族の物語
一人の患者だけではなく、さまざまな背景を持つ複数の患者とその家族が登場します。
それぞれの人生、それぞれの価値観、それぞれの選択。
多様な物語を通して、医療現場の複雑さと多面性が浮き彫りになります。
思想する医師・雄町哲郎の魅力
「医療では、人は救えないんだよ」という印象的な言葉を発する雄町医師。
かつての凄腕外科医が、なぜ地域病院の内科医として働くことを選んだのか。
医療技術だけでなく、哲学的な思索を深める医師の姿が、読者に深い印象を与えます。
静かで深い感動
派手な展開や劇的な奇跡はありません。
著者自身が「医療が題材ですが『奇跡』は起きません」と語っているように、本作は現実の医療現場に真摯に向き合った作品です。
しかし、日常の中にある小さな選択、静かな対話、穏やかな別れの中に、深い感動と気づきが込められています。
読後、静かな余韻が長く心に残る作品です。
読み終わった後の問いかけ
自分自身の「死」と向き合う
本作を読むと、自分自身の終末期について考えずにはいられません。
もし自分が病に倒れたら、何を選ぶのか。
家族にどう伝えるのか。
誰もが避けられない問いに、真摯に向き合うきっかけを与えてくれます。
「幸福」の意味を再考する
エピクロスの思想を通して、「幸福とは何か」を改めて考えさせられます。
物質的な豊かさ、長寿、社会的成功。
それらが本当の幸福なのか、それとも別の何かなのか。
現代社会で忘れがちな大切なことを思い出させてくれる作品です。
こんな人に特に読んでほしい
医療や介護に関わる人
医療従事者や介護職の方には、現場でのジレンマや葛藤に共感できる内容です。
また、日々の仕事の意味を再確認するきっかけにもなるでしょう。
家族の医療や終末期に向き合っている人
大切な人の医療や終末期に向き合っている方、あるいはこれから向き合う可能性がある方には、選択のヒントや心の準備に繋がる作品です。
人生について深く考えたい人
哲学的なテーマに興味がある方、人生の意味や幸福について考えたい方にとって、小説という形で深い思索に導いてくれる一冊です。
夏川草介ファン、『スピノザの診察室』を読んだ人
『神様のカルテ』シリーズを愛読してきた方、『スピノザの診察室』に感動した方には、作家としての深化と雄町哲郎という魅力的な医師の新たな物語を楽しめる作品となっています。
注意点など
重いテーマであること
医療や死を扱っているため、内容は決して軽くありません。
病気や死に対して敏感な時期にある方は、読むタイミングを選んだ方が良いかもしれません。
明確な答えは示されない
医療の現場と同じく、作中でも明確な「正解」は示されません。
読者それぞれが自分なりの答えを探す必要があります。
専門用語や医療描写
医療現場が舞台のため、医学用語や治療の描写が出てきます。
ただし、夏川さんの文章は分かりやすく、一般読者にも理解しやすい配慮がなされています。
感情的になる可能性
患者や家族の物語は、深く心を揺さぶります。
涙なしでは読めない場面も多いため、心の準備が必要かもしれません。
おわりに:命と向き合うすべての人へ
『エピクロスの処方箋』は、『神様のカルテ』シリーズで多くの読者の心を掴んできた夏川草介さんが、現役医師として20年以上の経験を積んだ上で、命と幸福について到達した境地を描いた作品です。
本作は、2024年本屋大賞第4位&京都本大賞を受賞した『スピノザの診察室』に続く「雄町哲郎シリーズ」の第2弾として、2025年9月29日に刊行されました。
医療現場の誠実な描写、地域医療の難しさ、そして「幸福とは何か」という哲学的な問い。
これらが一つの物語の中で丁寧に紡がれ、読者に深い感動と思索の時間を与えてくれます。
エピクロスが説いた「真の幸福」とは、快楽を追い求めることではなく、心の平穏と精神的な豊かさを得ることでした。
そして夏川さんは、それに「孤独ではないこと」を付け加えています。
多様性の名のもとに、人と人とのつながりが断ち切られ、互いに歩み寄ることが難しくなりつつある現代だからこそ、この物語が多くの人の足下を照らす、温かな灯火となることでしょう。
医療に関わる人も、そうでない人も、いつか必ず向き合う「命の終わり」について、今から考えるきっかけを与えてくれる、価値ある一冊です。
この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。
おわり
ジャケドロ661
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