早見和真さんの『ザ・ロイヤルファミリー』をご紹介！あらすじなど

競馬を通して描かれる親子三代の絆と夢の継承

継承される血と野望。

届かなかった夢のため――子は、親を超えられるのか。

馬主とその家族の20年を描く圧巻のエンターテインメント長編。

早見和真さんの『ザ・ロイヤルファミリー』は、競馬の世界を舞台に、親子三代にわたる夢の継承と家族の絆を描いた感動作です。

ザ・ロイヤルファミリー（新潮文庫）

あらすじなど
競馬を知らなくても心に響く理由
- 普遍的な家族の物語
- 相続馬限定馬主という制度
二つの受賞が示す作品の価値
- 史上初のW受賞
- 競馬界からの全面協力
作品の構成と読みどころ
- 二部構成の妙
- 圧倒的なリーダビリティ
早見和真という作家
- 多彩な作品群
- 『小説新潮』での長期連載
読み終わった後の余韻
- 父と子、そして孫へ
- 夢を諦めないこと
TBS日曜劇場でドラマ化
こんな人に特に読んでほしい
注意点など
おわりに：三代にわたる夢の継承

あらすじなど

父を亡くし、空虚な心を持て余した税理士の栗須栄治は、ある日友人に誘われて競馬場へ。

ビギナーズラックで馬券を当てたことがきっかけで、人材派遣会社「ロイヤルヒューマン」のワンマン社長・山王耕造と出会います。

「お前に一つだけ伝えておく。絶対に俺を裏切るな」

こう告げた山王耕造の秘書として働くことになった栗須は、競馬に熱中し、〈ロイヤル〉の名を冠した馬の勝利を求める山王と共に有馬記念を目指すことに。

物語は単なる競馬小説にとどまりません。

山王耕造と愛人の間に生まれた息子・耕一、そしてその次の世代へと続く、馬主一家の波瀾に満ちた20年間を描く壮大な家族の物語です。

馬も人も、父母から子へ、そして孫へと血は継承されていきます。それが競馬の歴史であり、人の歴史なのです。

競馬を知らなくても心に響く理由

普遍的な家族の物語

この作品の真の魅力は、競馬という舞台装置を通して描かれる普遍的なテーマにあります。

親子の絆と確執
夢を継承すること
自分のルーツと向き合うこと
諦めずに挑戦し続けること

競馬のルールを知らなくても、人間ドラマとして十分に楽しめる構成になっています。著者の早見和真さん自身が「競馬を知らない人にも楽しんでほしい」という思いで執筆されたことが、作品の随所から感じられます。

相続馬限定馬主という制度

物語の重要なキーとなるのが「相続馬限定馬主」という実在の制度です。

馬主が亡くなった際、相続人がまだ若く通常の馬主資格を満たさない場合でも、故人が所有していた競走馬に限り、特例として馬主になることができる制度。

この制度が、親から子へ、子から孫へと夢が継承されていく物語の根幹を支えています。

二つの受賞が示す作品の価値

史上初のW受賞

『ザ・ロイヤルファミリー』は、2019年度JRA賞馬事文化賞と2020年第33回山本周五郎賞を受賞しました。

競馬に関する優れた著作に贈られるJRA賞馬事文化賞と、優れた大衆小説に贈られる山本周五郎賞のW受賞は史上初の快挙です。

この二つの賞が示すのは、本作が競馬小説として専門的な評価を受けながら、同時に普遍的な文学作品としても高く評価されたということ。

競馬ファンにとっても、一般読者にとっても価値のある作品であることの証明です。

競馬界からの全面協力

作品のリアリティは、著者が競馬の世界を深く取材した成果です。

現役の馬主、調教師、騎手、生産者など、実際の競馬関係者への丁寧な取材に基づく描写は、競馬を知る人々からも高い評価を得ています。

作品の構成と読みどころ

二部構成の妙

物語は大きく二部構成になっています。

第一部では、山王耕造と栗須栄治の関係を中心に展開します。

成り上がった男が最後に求めた馬主としての栄光。ワンマン社長の破天荒ぶりが縦横に展開し、読者を引き込みます。

第二部からが本作の真骨頂です。山王耕造と愛人の間に生まれた耕一が登場し、彼の物語になるところから、本当の物語が始まります。

親の夢を継承する息子。そしてさらにその次の世代へ。

圧倒的なリーダビリティ

文庫本で600ページという大作ながら、驚くほどすらすらと読める作品です。

レースシーンの臨場感あふれる描写。実在の名馬や名騎手を思わせる登場人物たち。

現行競馬を知り尽くした著者ならではのディテール。

そして何より、登場人物たちの人間味あふれる描写が、読者を物語に引き込みます。

競馬を知らない読者でも、延々と繋がる血のドラマに悠々とした時の流れを感じて、心が揺さぶられるはずです。

早見和真という作家

多彩な作品群

1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。

2015年『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞（長編及び連作短編集部門）を受賞。2020年『店長がバカすぎて』で、2025年には『アルプス席の母』で本屋大賞ノミネート。

ミステリー、家族小説、青春小説と、ジャンルを超えて多彩な作品を生み出してきた早見和真さん。その作品に共通するのは、丁寧な人物描写と、読者の心に深く残る物語の力です。

『小説新潮』での長期連載

本作は『小説新潮』2017年1月号から2018年9月号まで、約1年9ヶ月にわたって連載されました。

長期連載ならではの緊張感と、練り上げられた構成。

連載を重ねる中で熟成されていった物語は、2019年10月の単行本刊行、2022年11月の文庫化を経て、多くの読者に愛される作品となりました。

読み終わった後の余韻

父と子、そして孫へ

この物語を読み終えた時、多くの読者が自分自身の家族について思いを馳せることになるでしょう。

親から受け継いだもの。

子に伝えたいもの。

血のつながり。

継承される思い。

競馬という舞台を通して描かれるのは、私たち全てに共通する人生のテーマです。

夢を諦めないこと

「誰もが言った。もう無理だ、と。しかし、夢は血とともに子へ継承される」

この作品が伝えるメッセージは明確です。

親が果たせなかった夢も、子が継承し、さらに次の世代へとつながっていく。

諦めずに挑戦し続けることの尊さ。そして、自分一代では終わらない人生の意味。

TBS日曜劇場でドラマ化

2025年10月12日から、TBS系列「日曜劇場」枠でドラマが放送されています。

主演は妻夫木聡さん（栗須栄治役）。佐藤浩市さん（山王耕造役）、目黒蓮さん（山王耕一役）、松本若菜さん（野崎加奈子役）、沢村一樹さん、黒木瞳さん、小泉孝太郎さんら豪華キャストが出演。

JRAの全面協力のもと、実際の競馬場での撮影も行われており、映像化によって原作の魅力がさらに広がっています。

こんな人に特に読んでほしい

家族の絆を描いた物語が好きな人

親子関係、家族の絆を描いた作品が好きな方には、心に深く響く作品です。

競馬という舞台を通して、家族とは何か、継承とは何かを考えさせられます。

早見和真ファン

『イノセント・デイズ』や『店長がバカすぎて』などで早見和真さんの作品を楽しんだ方には、著者の新たな魅力を発見できる作品です。

これまでとは異なる舞台でありながら、人間への深い洞察は変わりません。

長編小説をじっくり読みたい人

600ページという大作を、時間をかけてじっくり読む楽しみ。

登場人物たちの人生を追いかけ、20年という時の流れを共に体験する読書体験は、長編ならではの醍醐味です。

夢や目標に向かって頑張っている人

夢を追いかけること、挑戦し続けることの意味を考えさせてくれる作品です。

今まさに何かに挑戦している人、諦めそうになっている人に、力を与えてくれる物語です。

競馬に興味がある人はもちろん、興味がない人にも

競馬ファンなら、リアルな競馬の世界を楽しめます。

一方で、競馬に全く興味がない人でも、人間ドラマとして十分に楽しめる構成になっています。

注意点など

読書時間の確保

文庫本で600ページという大作のため、相応の読書時間が必要です。

ただし、ページをめくる手が止まらない展開なので、想像以上にスムーズに読み進められるはずです。

感情移入への準備

登場人物たちの人生に深く入り込む作品のため、読み終わった後に強い余韻が残ります。

特に親子関係について考えさせられる場面が多いため、自分自身の家族について思いを馳せることになるかもしれません。

競馬用語について

競馬の専門用語も登場しますが、文脈から理解できるように書かれています。

むしろ、競馬を知らなかった人が、この作品をきっかけに競馬の世界に興味を持つこともあるでしょう。

おわりに：三代にわたる夢の継承

『ザ・ロイヤルファミリー』は、競馬という舞台を借りながら、親から子へ、子から孫へと継承される夢と絆を描いた、感動の家族小説です。

山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞のW受賞という快挙が示すように、競馬小説としても、文学作品としても高い評価を得た本作。

競馬を知る人にとっても知らない人にとっても、等しく心に響く普遍的な物語です。

「子は、親を超えられるのか」

このシンプルな問いかけは、読む人それぞれに異なる答えをもたらすでしょう。

親の夢を継ぐこと、自分の夢を追うこと、そして次の世代に何かを残すこと。人生の意味について、深く考えさせられる作品です。

600ページという大作を読み終えた時、あなたは自分自身の人生、そして家族について、新たな視点を得ているはずです。