何度も苗字が変わっても、愛だけはずっと続いていた。
瀬尾まいこさんによる長編小説『そして、バトンは渡された』は、2019年に本屋大賞を受賞した作品です。
家族の形が多様化する現代において、「血のつながり」という言葉だけでは到底語りきれない人と人との絆を、丁寧に、そして温かく描いた物語として高く評価されています。
主人公の少女が複数の親に育てられるという、一見すると波乱に満ちた設定でありながら、物語全体に漂う空気はどこまでも穏やかです。
読んだ後にやさしい気持ちが残ると評価されることが多く、世代を問わず支持を集めている作品といえます。
2021年には永野芽郁さん主演による実写映画化も果たされ、原作を読んでいた文学ファンだけでなく、映画ファンからも大きな支持を集めました。
「家族とは何か」という問いを、難しい言葉でなく、登場人物の日常と感情を通じてそっと届けてくれる——そんな一冊です。

あらすじ
主人公の森宮優子は、現在高校生の女の子です。
幼くして実母を亡くし、その後は義父や養母、継母など、複数の親に育てられてきました。
実に3人の父親と2人の母親を”リレー”されるようにして暮らしてきた、という非常に数奇な来歴を持つ少女です。
親が変わるたびに苗字も変わり、住む場所も環境もそのつど大きく変化してきました。
しかし注目すべきは、どの家庭においても優子が深い愛情を注がれて育てられてきたという点です。
複雑な家庭環境にもかかわらず、優子は明るく前向きに日々を過ごしており、周囲の人間関係も良好です。
高校では、ピアノの伴奏という縁を通じて早瀬くんというクラスメートと出会い、互いの距離を少しずつ縮めていきます。
物語は優子の現在と、彼女がさまざまな家族と過ごしてきた過去を交互に描く構成をとっており、それぞれのエピソードが積み重なっていく中で、「家族とは何か」「人と共に生きることとはどういうことか」という問いが、静かに浮かび上がってきます。
血のつながりだけでは語れない愛のかたちを、優子の人生を通じてやさしく問いかけてくる物語です。
著者について
瀬尾まいこさんは、日本を代表する小説家のひとりとして広く知られています。
人と人との関係性を丁寧に描くことを得意とし、日常の中にある温かさや切なさを絶妙なバランスで作品に落とし込むスタイルが特徴的です。
『そして、バトンは渡された』は2019年に本屋大賞を受賞し、瀬尾さんの作家としての評価をさらに高めた作品として広く認識されています。
受賞歴や代表作の詳細については、公式情報や書籍内のプロフィール欄でご確認いただくのがおすすめです。
やさしく読みやすい文体でありながら、テーマの奥深さを失わない作風は、幅広い読者層から支持されています。
ひとつひとつのエピソードに込められた細やかな感情描写は、読む人の心に静かに染み入るといわれています。
「日常をとおして人間の本質に触れる」——そんな作風を持つ作家として、瀬尾まいこさんの名前は多くの読書好きの間で語り継がれています。
読みどころ
血縁に縛られない”家族”の新しいかたち
この作品の核心にあるのは、「家族とは何か」というテーマへの真摯な向き合い方です。
優子は苗字が変わり、親も変わっていく中で成長してきた少女ですが、どの家庭においても真剣に愛され、守られてきました。
血のつながりがあるかどうかよりも、そばにいて、ともに時間を重ねることこそが絆を生むのだというメッセージが、物語全体を通じて静かに伝わってきます。
現代社会では、ひとくちに「家族」といっても、その形はさまざまです。
この作品は、そうした多様な家族のかたちをやさしく肯定し、読む人が自然と「家族の定義」について考え直すきっかけを与えてくれます。
押しつけがましくなく、それでいて深い余韻が残る——そんな読後感が多くの読者から評価されている作品です。
多彩なキャラクターとそれぞれの愛の形
物語には、自由奔放で美しい継母・梨花や、知的で寡黙ながら優しい義父・森宮さんをはじめ、個性豊かな大人たちが登場します。
どのキャラクターも、単なる「家族の役割」を演じているのではなく、一人の人間として描かれているところが印象的です。
それぞれが持つ愛情の形もまた異なっており、その違いそのものが物語に奥行きを与えています。
梨花という人物ひとつをとっても、その言動の背景にある感情の複雑さが丁寧に描かれており、読み進めるうちに「この人はなぜこうするのか」という問いへの答えが少しずつ見えてくる構成になっています。
登場人物の行動と言葉を通じて、「一緒にいることを選ぶ」ことの重さと温かさが伝わってくる——それがこの作品の大きな魅力のひとつといえます。
愛し方はひとつではないという事実を、複数のキャラクターを通じて多角的に描き出しているところが秀逸です。
青春の繊細さと、音楽が運ぶ温もり
家族のドラマが中心でありながら、優子と早瀬くんの関係を軸にした青春要素も物語に彩りを添えています。
思春期ならではの繊細な感情の揺れや、距離を縮めていく過程の微妙なニュアンスが丁寧に描かれており、思わず懐かしいような感覚を覚える場面もあります。
特に、ピアノの伴奏という設定が物語全体に柔らかさと品のある雰囲気を加えており、優子の内面の成長をそっと支える役割を果たしています。
音楽を通じて心が通い合うという描写は、言葉にならない感情を伝えるうえで非常に効果的に機能しています。
家族小説としての重さと、青春小説としての軽やかさがバランスよく共存しており、幅広い読者層に響く構成になっているといえます。
複数の感情層が重なりあうことで、読み終えたあとの余韻がより豊かになっています。
こんな人におすすめ
家族の多様なあり方に関心がある人
血縁だけでは語れない家族像について考えたことのある人や、自分自身の家族関係に複雑な思いを抱いている人に、特に響く作品です。
「家族」というものをあらためて問い直すきっかけになると考えられます。
正解のない問いに、やさしく寄り添ってくれるような一冊といえます。
心が温かくなるヒューマンドラマを求めている人
重いテーマを扱いながらも、作品全体のトーンは穏やかで温かみにあふれています。
読んでいると自然と気持ちが落ち着いてくるような文体も魅力のひとつです。
心に余白が欲しいときや、日常の疲れを感じているときに手に取りたい作品といえます。
人間関係の変化と成長を描いた物語が好きな人
成長とともに関係性が変わっていく様子を描いた作品が好きな人にも、強くおすすめできます。
優子が複数の家族とのかかわりを通じて少しずつ成長していく過程は、静かながらも力強い読み応えがあります。
人生のさまざまなフェーズで読み返したくなる物語といえるでしょう。
原作と映画を両方楽しみたい人
2021年公開の実写映画では、永野芽郁さん、田中圭さん、石原さとみさんらが出演し、原作の持つ繊細な感情と柔らかな温もりを丁寧に映像化しています。
映画から先に入った人も、原作を読むことでより深く物語の世界を味わえるでしょう。
映像では伝えきれない心理描写のひとつひとつが、原作ならではの魅力として際立っています。
注意点
「家族の崩壊」を描く物語ではない
複数の親に育てられるという設定から、重く辛い展開を想像する人もいるかもしれません。
しかしこの作品は、家族関係の崩壊や悲劇を描くものではなく、むしろその逆といえます。
どのエピソードにも愛情が根底にあり、物語全体として明るく前向きな読後感を持つ作品です。
「暗くて読み進められない」という心配は基本的に不要ですが、「波乱に満ちた刺激的な展開」を期待していると、穏やかなテンポにやや物足りなさを感じる場合があるかもしれません。
時系列が複数にわたる構成
物語は優子の現在と、それぞれの家族と過ごした過去のエピソードが交互に描かれる構成をとっています。
丁寧に読み進めれば流れを追いやすい構成ですが、読み始めの段階では人物関係や時系列が少しわかりにくいと感じることもあるかもしれません。
焦らずゆっくりと読み進めることで、それぞれのエピソードのつながりが美しく見えてくる作品です。
おわりに
『そして、バトンは渡された』は、「家族」というものをあらためて考えさせてくれる作品です。
血のつながりがなくても、そばにいることを選び、愛情を注ぎ続けた人たちが確かに存在していた——そのことが、優子という少女の明るさと前向きさの根拠になっています。
苗字が変わり、家が変わっても、受け取り続けてきた愛のバトン。
そのバトンが何を意味するのかは、ぜひ実際に読んで確かめてほしい部分です。
本屋大賞を受賞した作品だけあり、物語の完成度は折り紙つきといえます。
読みやすい文体でありながら、テーマの深さは決して浅くなく、読後にじんわりと広がる余韻が長く残ります。
映画を先に観た人も、原作ではじめて触れる人も、きっとそれぞれの入口からこの物語の豊かさを受け取れるでしょう。
家族とは何か。
愛するとはどういうことか。
その問いに、やさしく、しかし確かな言葉で向き合ってくれる一冊です。
手に取る機会があれば、少しゆっくりとした時間の中で読み進めてみるのがおすすめです。
この記事があなたの読書選びの参考になれば幸いです。
おわり
ジャケドロ661
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